ルフラン
わたしが70歳になったとき
皺にきざまれた
まぶたの奥には
なにが映っているだろう
27年後の虹は
いまと変わらずに7色で
はにかんで
空にかかるだろうか
うっすらと現れた虹を見上げて
その時の
わたしは
どう感じるだろうか
70歳になったとき
花々は狂うように咲くだろうか
ひび割れたふくらはぎの下で
燃え立つ
いくつもの若さを
しんしんと呼吸して
220年前に
あなたが70歳だった頃
花も鳥も
狂うように満ち溢れ
色彩は
息絶えることがなかった
枯れていく葉の穴の奥にさえ
満ち足りた世界を見た
鳥が虫が増殖し
いのちが繁茂した
あなたが死んでしまっても
あなたのいのちは繁茂し続け
わたしたちの時代に絡みつく
長い永い葡萄の蔓のように
わたしが
70歳になったとき
いいえ
60歳でもそれは同じなのだ
50歳でも
いまのわたしの歳でも
ほんとうはきっと変わる事はない
ないのだけれど
27年後の
そこに
何があるのか
愛し続ける
ものが
ひとつでも
あるのか
(70歳まで生きたりしない
(わたしは
(早々と立ち枯れて
(骨になる
(冬の野原のからっぽになる
(しんしんと雨が降り
(むき出しの骨を濡らせば
(たった今笑ったような
(音を鳴らして
それでも
70歳になってしまったとき
老いたわたしの肩に
一羽の雨が舞い降りる
すすり泣くような
そのさえずりを
誰と聴いているのだろう
キミが70歳になったとき
わたしはきれいな空気になっていて
取り込まれては
吐き出される
飽きもせず
キミのなかを
夢のように
通り過ぎる