百年のコドク


わたしには
書きたいものなどもうなくて
さっきから
雨の音ばかり聴いている
明日降る
雨の音を

一昨日降った
雨の音を

百年前に降った雨の粒が
わたしの体内を流れていくのを
黙って
聴いている

誰もいなくなったあとの
野原に降る
雨の音を

窓のむこうで
土を叩く
匂い立つ水があり
幼い日を濡らした雨を

肉の上に
刺さるように
二十歳だったわたしを濡らした雨を

濡れても濡れても
いつか乾いて
晴れ晴れと空を見た
終わらない雨の音だけが
救いだった夜も

そうしてすべて遠ざかり
あるいはきっと近づいて
またやってくる
雨の音を

アスファルトをはじく
乱暴な音に
胸が高鳴った
寝静まる闇の中から
呼んでいた

誰かではなく
ただ
雨の音が
わたしの深い場所を満たし
いつも連れ去った

届かない向こう側から
届く手紙のように
耳をひらけば狂おしい
雨の音を

乾いても乾いても
ふたたび濡れそぼり
温まった骨を震わせる

草、打たれて
花、打たれて

誰もいなくなったあとの
世界に降る
雨の音を