キソウホンノウ


誘われて
また来てしまった
雨のにおいが立ちこめると
あたしの足は動き出す
スニーカーの踵を蹴って
地面を
空を
嗅ぎ分けて
団地のとなりを駆け抜けて

どこにでもありがちな
喫茶店の片隅
くぐりぬけ
自転車置き場も追い越して
行こう

埃っぽい風も
洗われる
傘で受ける雨粒の音
鼻歌のような身軽さで
行こう

灰色のかたまりを
人差し指で支えながら
爪先が覚えてしまった道をゆく
爪先がまだ知らない道をゆく

話しかけてくる道端の看板
おんぼろアパートの表札
クマの棲んでるパン屋
旅の1ページ目はスタンプだらけで
なつかしいことばかりでも
立ち止まってなんかいられない


膝小僧の呼び声に
膨らんでいく雨粒
青信号になる前に
じーんずの裾がぐっしょり濡れても
おかまいなしに