魚



アブクだ
たえまなく零れ落ちる
たえまなくあふれかえる
発しようとするたび
音にならず
アブクがわたしから出て行く

ここは水中で
なまあたたかく
もうどこへもいかなくていいみたい
なのに
だいじなひとことが出てこない

目を見たら
澄んでいた
だからもう
金魚みたいにパクパクして
飲み込んでしまった

黙って泳いでいる
尾ひれや背びれをゆらゆら
わたしは黙って
泳いでいる
あなたも黙って
泳いでいる

リボンのように
尾っぽを結んで
星座のかたちになる
陸をかけるあなたを水中に引きずり込んだ
わるい魚の精

水草のあいだから
みえる月
うすいカケラの色はオレンジ
伝えたいことが
満ち欠けする
あなたの手をとって
引き寄せられる水の重さ

いつか海まで出られるかな
限りなく意味のないアブクは願いになり
わたしから離れて
水面を立ち上り
月のカケラに届く
触れてはじめてはじける


あなたとわたしは背泳ぎで
それを見ている

聴いている