生け花



そこには入れない

あたたかい花瓶のなかのうるんだ茎

飲み込んでも飲み込んでも

種がこぼれて

線路際に花が咲いてしまう

 

ぬぐってもぬぐっても

やわらかい視線は消えず

背中に

みえない実を結んだ

 

揺らして帰ろう

どこともない部屋へ

ぷらぷらと尻尾をなびかせるような

陽気さで

一緒に帰ろう



自転車置き場から逃げ出した

鈴の泣き声

猫のお尻をふりながら

虫の音ほどの挨拶で振り向いた

葉の葉の葉の下で

ざわめく冬

こっそりと石は膝を抱き

うずくまる



暮れていく春の予感が

もう鼻先でしている

家に着くころには

すっかり月も高くなり

絵のようだ

何世紀も前から知っていた光の蒼さ

たどたどしい指先の弦を

ほどいて弾いてみる




花瓶からしおれて垂れ下がる

花のなまえ

冬の饒舌が夜景ににじみ

窓際のカーテンを揺らしている