うどんや


うどん屋ののれんをくぐり
向かい合って席について
のぞきこむ
メニューのなかには
小さな詩がいくつも書かれており
お腹の具合にあわせて
リクエストする
あなたは店員さんを呼んで
タイトルをふたつ告げる


あたたまりたいわたしたち
マフラーを解いて
リュックをおろして
ひといきつきたいわたしたち
湯気の立つ
小さな詩が運ばれてくるまで
向かい合って
話しをする
さっき買った上着の話
上着を着るための乗り物の話
乗り物に乗っていたむかしの話
奥のキッチンから
卵を朗読する音が
きこえてくる


うどん屋ののれんが揺れて
新しい客がはいってくる
土曜日の地下一階のこの店は
とても静かに
人がすこしずつ訪れる
奥の席についた客が
どんな詩を頼んだのか
ここからはわからないけれど
あなたの頼んだ詩のせいね
書きかけの赤味噌のにおい


お願いした詩が
お盆にのって運ばれてくるまで
わたしたちは向かい合って声を聴く
破顔するその表情に
胸があたたまっていくのを感じながら
ふうふうと
息をかけてさましながら
あつあつの一行をひろいあげて
喉をならして
飲み下すときがくるまで
向かい合って
話しをする


すこし先の将来の話
すこし前の過去の話
すこしずつ自然になってきた振る舞いと
いまもまだためらいがちなタイミングと
地上はますます温度が下がり
氷河期になりそうないきおいだから
人気のないこの砦のようなうどん屋で
向かい合って
すっかり気を許しているよね
わたしたち