こんや朗読しています


  寂しかったので朗読をしていた 
  声に出して
  ひとの書いた詩を読んだ
  寂しかったせいかひとの詩は
  昨日読んだ時よりも近づいてきた
  知らなかったひとの手が
  わたしにそっと差し伸べられる
  それは同時に
  わたしの手が
  詩を書いたひとに差し伸べているんだろう
  朗読しているうちに
  伸びてきた2本の手が握手した


  気付かれないことが
  知らない場所でいくつも起こっていることに
  わたしは気付かない
  素知らぬふりのあなたが
  どんなふうにわたしを想っているかなんて
  わたしは気付かずに
  こんや朗読をしている
  こんや朗読をしているわたしに
  あなたもまたこれっぽっちも気付けない


  朗読をしているうちに
  寂しかった理由が音になって拡散していった
  そう
  開いたページに書かれた
  わかりやすいことばや
  鋭く切り出された表現や
  不可解な言い回しになって
  そう
  誰かの感じた幸福感や
  ぬぐえない虚無感になって
  わたしの目にとびこみ
  喉から駆け抜け
  きっと
  あなたのところへ行ったんだと思う


  自分のことしか見えない目と
  自分のまわりしか聴こえない耳とで
  ひとを思うことのむずかしさ
  実体のないほほえみのいとおしさ

  さいごまで朗読したあとで
  パソコンに向かって詩を書いた
  握手していたわたしの手があたたまり
  キーボードの上をはずんでいく
  (ような気がして


  出来上がったら朗読してみようと思う
  ひとの詩でなくこんどは
  自分の詩を読んでみる
  朗読するのならもっと色っぽい詩がよかったけれど
  とにかく今夜できあがったものを読もう
  今朝仕上げた詩のほうが断然迫力があるんだけど
  とにかく今夜出来上がった新しいものを読もう
  いちばん今のわたしに近い詩を
  いまのわたしそのままの詩を