闇浴


             ふと
             心休まることもある
             世界中のごめんねを集めて
             ポケットにしのばせていても
             空はきれいだ


             研ぎ済まされた三日月が
             空に引っかかって
             破れ目をつくりそう
             だけど
             心はおだやかだ
             裂け目から次々にあふれてくる新しい
             やみ
             なつかしい匂いをさせて
             わたしを包んでいく
             いろのないひかりに濡れそぼり
             帰るみちすがら
             みちあふれていくわたしから
             無くなるものはなにもなく
             得るものばかりのような気がする


             黙ってあるくひとりの影が
             うなずけば
             どこにでも行けるとおもう


             振り向かずとも
             ぬくもりはそこにあり
             次々と背中を伝ってこぼれおちる
             深い雨のなかをあるくんだ
             あたたかい
             雨のようなやみだ
             たえまなく流れ落ちてこぼれおちてうまれおちて
             止むことなく
             わたしをいだく
             霧のようなやみだ
             わたしたちの裂け目からうまれた
             まあたらしいやみだ
             未知のなかに育まれた原始のやみだ
             入り込めばわたしのなかに響いていく
             なにか俊敏ないきものになって
             響いては駆け抜けていく
             誰かに知らせるように遠くへと
             そうしてまた還ってくる
             おなじように濡れそぼり
             おなじような匂いをさせて
            
             
             もっとどんどんあふれてしまえばいいとおもう
             わたしから裂け目から
             次々と惜しみなく
             あふれだせばあふれだすほど豊かになる
             きっとそうだ


             尽きない泉のようにどこまでも
             なくしてもなくしても
             失うものなどなにひとつなく
             見つかるものばかりのような
             知りえることばかりのような

            
             さんさんと
             とりとめなく
             濃いやみ薄いやみ降り注いで
             埋もれていく
             ほそい月が
             薄目をあけたようにわたしを見ている
             見守られて
             見抜かれて
             目をそらせずに
             闇と同化していくわたし
             満たしてゆくもの
             いきおいこぼれていくものを
             そのままに
             感じている
             いま確かに
             感じている