エブリディ



あの日捧げた歌が
眠っている
つないだてのひらのなか
通り過ぎた路地の壁を伝っている
臆病な蔓の細い葉裏に
閉じ込められているままの
わたしたち
這い回った記憶
かたつむりみたいに足跡残して

水の中も
光の中も
降り注ぐものを受けながら歩く
同じ道を帰りたがらないひとの
なんだかせつない
その癖を
わたしはたぶん
これからも引き継ぐだろう

なにかが欠けていて
なにかがあふれている
あなたの眼差しはどこか遠くにあり
ふとわたしに帰ってくる
そのやさしい瞬間を
待っている

小説の中の恋人は
小説の中に戻っていき
交わされた視線だけが
かわいい押し花のように残った
あの日
文庫本のラブレターが並んでいる
本棚のちいさな秘密
隣を歩く人は
大きなあくびをふたつする

そらすことのできない
想いがある

水の中も
光の中も
降り注ぐものを受けながら歩く
降り注ぐものを受けながら