水音


枕に深く沈んでいると
聴こえてくる音があり
それはぽちゃぽちゃと楽しげな笑い声のようで

なんの音なのか気になって
枕に耳をずっと押し付けてもっとその音に近づいてみれば
ちろちろと 
それは確かに
水辺に垂れた葉をくすぐって流れる
小川の音なのだった

水はとても冷たい
まるで触れているかのようにわかる
水際いっぱいに茂った植物が足を伸ばして
手を伸ばして
水遊びをしているように
触れ合いながら透明な水は流れていく
差し出した葉の頭をやさしく撫でていく
ちゅるちゅると
水面はさざなみ立って揺れているので青はうつさないのに
想い焦がれた雲がそっと流れ込んだりする
雪解けの日のように

そんな小川のせせらぎが
わたしの枕の下から聴こえてきて
わたしの眠り始める頭の中に現れてとめどなく流れているのだ
息を殺した静かな夜に

どこかで堪えている証なのか
わたしたちの痛む胸の奥を
呼び合って交じり合って流れてくる
ふくらんではうつむきながら葉を揺らし光を受けて
それは確かに屈託のない水の音
わたしの枕の下で
横を向いたきりの片耳からたちのぼる
それは思いがけず希望のような
あふれんばかりの清清しさで


目を閉じて
吸い取るように聴きながら眠りに落ちる
(水面に落ちる)
瞬間
わたしは
ちっぽけな花になって