野草の咲く沼からバスに乗る



白い野草の花を見にいった
沼地のぐずぐずしたところに生えている
時期を逃したかな
ちらほらと
まばらな白に誘われて
水際に沿って歩いていくと
行き着いた二股のバス停のあたりは
いちめんに
霜が降りたように光っていた

この花を見たくて
訪れるひとはいないだろうけど
おんなじ風に晒されていると
とても素朴なきもちになる

自分のぐずぐずしたところにも
なにか得体の知れない栄養分があり
自分にさえ気づかれないまま
毎年約束事のように
花がささやかに咲いているのかもしれず

バス停のベンチに座って
買ってきたパンをかじった
クリームチーズ
クランベリー
頬張りながら
目の前の沼地を眺める
とんがった葉の先で視線がくすぐったい
ほらいま
浄化していく沼の水のあぶくを聴いた
水の中の根が
呼吸をするたび
水はきゅんとひきしまる
花の吐いた息は
空を透き通らせる

ときおりドポンと大きな音が響くのは
姿のみせないウシガエルめで
泥がいっきに沸き立つと
水はおもわず気を緩めてしまう
ふはは
引き締まって緩んで
水は磨かれていくのだな

ひとしれず
自分しれず
今見ているこの風景はあなたの景色
あなたやわたしの胸のなかの景色で
誰も見に来ることもない
自分さえ
知らない場所

バスは少し遅れて曲がり角から姿を見せた
乗る理由も
乗らない理由も
わたしたちは持っていないので
とりあえず乗ってみることにして
向かってくるバスを
目を細めて見守っている