ちゃいてぃらて


空港のスタバで
宙吊りのガラス窓に面と向かって
ひとりだった
真正面のあかるい牢獄
うごめく人たちは故郷へかえる
あるいは新しい土地のにおいを嗅ぎにいく
どちらであっても
ちゃいてぃらて
とんでもなく甘い薬の味がして
思い出してしまえるから
飲んだ
思い出したくて飲んだ
ガラスの牢獄に面と向かって
ひとりは好きだと思った

身をかくす
身をはぐらかす
知らないひとたちがいいね
誰もしらないあたしのことなんか
眼もくれず
古びた時刻表は捨てて
あたらしい思い出作りへと

みせつけてくれるじゃない

ジェットエンジン
あたしの下腹部からざわめきたって
ぽーんと抜けていってしまう
空港の
宙吊りのガラス窓のむこうの曇り空へ
白く磨きぬかれた性的な俤さがす声を感じて
手を広げてしまう腋も隠そうとせず
無味乾燥したちぶさ

仕方ないか

だいて
と無音で言ってみてから
(仕方ないか
本に目を落とす

空港の
宙吊りの窓にはフタホシテントウがいて
指にのせると飛ぼうとして引き返し飛ぼうとして
また下がり
とまどったあとびよんて羽をめいっぱいはみ出させて
飛び立ち案の定ガラス窓にぶつかるのだった
あのむこうは牢獄で
あたらしい時刻表が必要なのよ
フタホシは何度言ってもあたしのそばを離れないから
求婚せずにはいられなかった