あじさい変化






人間のわたしには憂鬱のもとでしかない梅雨も
あじさいのわたしにならウットリするほどの季節である

歩き出して5分と経たないうちに
靴下の先が湿ってきて
すっかり気分が悪くなってきたので
うちへ帰るまでの道すがら
わたしはあじさいになることにした

畑や庭でこんもりと
あふれんばかりに咲こうとしている
あじさいだ
そろそろ花の色がみえてきた頃の
ふくよかな花の玉だ

なんて気持ちのいい今夜の雨なんでしょ
あたしは一晩中
こうして静かに打たれていたいわ
こうして雨の音をききながら
ときおり大きな雨粒に
葉をふわんふわん揺らしながら
ただしっとり濡れそぼっていたいわ

傘をくるくる回しながら
そんなことを口走ってみると
なんだか気持ちが高揚してきて
裏庭のうっすら桃色に染まり始めている花玉の前を通ったとき
彼女と意思が通じ合ってしまった
いっそこの雨のなかをどこまでも
どうかこの雨のなかをいつまでも

いまのわたしなら
アマガエルとも通じ合えるだろう

闇に包まれた畑の上に降る
雨のなかを通ってアパートの部屋の鍵をあけると
電灯に照らされた上着もジーンズも湿っていて
ぶるぶるっと身震いをしたとたん 
わたしは人間に戻った