待ち時間


ちいさな図書館で
行き場が見つからず
本棚の陰に隠れていた
知らない匂いのする懐かしいところ
温室の花はあでやか

モノクロの写真集を手にとって
その重さに実感する
行方しれずの一日
雨はあがり
さっさと遠くに行ってしまった
それは
傘がまだ濡れている間のできごと

白黒の頁のなかで
微笑む老婦人に
こんにちは
わたしが隠れている間に
花は何度散ったのでしょう
おなじだけ咲き誇り
今はこうしてさらりと乾いた頁におさまって
清冽な笑顔となり
あたらしい人に会うのですね

手にした三冊の写真集は
どれも単色の
子供と地獄と老人たち
こどもとじごくとろうじんたち
意味があるならきっと
あとからでも追いつくだろう
わたしにはもう時間がなくて

傘の先からしたたる透明なインクで
覚え書き
図書館の廊下はすこし寒い

まだ湿った風が鼻先をちかづけて
自動ドアのむこうを行ったりきたり
ドアを開けば
たちまちわたしにじゃれついて
匂いを嗅いだだけで去っていった