ひからない隕石



  朝はやく
  チケットを取るために列につながって
  あなたと地面に座り込んだのを
  覚えています


  曇り空が
  考え込むより先に
  うきうきとはずんで
  これから始まる夏を予感させた


  あなたと
  どんな話をしたのか
  もう忘れてしまったけれど
  楽しくて仕方なかったことは
  今も忘れないでいます


  アスファルトの冷たさが
  ソーダ水の底みたいだったね
  ジーンズのお尻を通り抜けて
  からだの真ん中をまっすぐ駆け上がり
  頭の上ではじけていった


  とりとめのないことを
  彗星のうえで
  話しているみたいだった
  流れ飛ぶ宇宙を
  眺めることもなく
  零れ落ちる星々を拾うこともせず


  チケットの席は
  あんまりいい席じゃなかったけれど
  大事にカバンにしまいこんだ


  太陽がのぼり
  明るく地上を照らし
  わたしたちは列からほどけて
  ロッテリアに駆け込んだ


  あなたの指には水ぶくれがあって
  おかしく笑ったのを覚えています
  コーラの甘い炭酸が
  鼻に抜けてシャウトした



  あの彗星は
  どこを切り裂いていってしまったのでしょうか

  ときどき夜更けの窓を
  よぎるせつなさは
  そこからはがれて落ちてくる
  隕石なんだと思うのです