スタートライン



     引かれたばかりのスタートラインの前で
     やっと位置についた
     ここから長い長い時間をかけて
     わたしは走り出すことになる
     粉っぽいラインの前には
     わたし以外に誰もいない

     同じくらいの年代の人は
     もうずっと先を走っている頃
     石灰が指に着くくらいぎりぎりに
     両手を置いた
     あなたたちの
     はためくゼッケンのまぶしさも
     ここからは見えない
     沿道で飛び交う声援の響きは
     風に運ばれて聴こえたような気がする

     太陽がちかちかと
     降り注ぐ
     反射するフィールドに立って
     もういちど首を回して
     もういちど空を仰いで

     これからは
     自分だけの戦いなのだと思う
     スピードではなく
     リズムを保ちながら
     ずっと前に走り出した人たちに比べれば
     なんとも短い時間のなか
     残された距離にあとどれだけの
     発見があるか探しに行く

     引かれたばかりのスタートラインは
     少しやさしい励ましにも見える
     この一本の線の前と後ろでは
     見える景色が違う気もする
     そうして
     誰かとさよならするかのような
     さびしい境界線のようにも見える