夏の桜



夢の宴は終わり
あなたは一本の木に戻る
まみどりの葉を風にまかせ
日を浴びて坂道に立つ
もう何も飾るもののない
あなたは一本の木に戻る

誰かを追いかけたハナビラは
雪のように降りしきり
春の雨に流れて消えた
月の晩には薄桃色の雲になり
地上を離れてぽかり旅をした

あなたがあなたでないような
幻のような時間が過ぎた・・・

もうハラハラと泣いたりしない
初夏の雨に打たれよう
青い初夏の雨に打たれて
金色の日差しを浴びたなら
あなたはあなたを取り戻す

ぐんと幹を太らせて
ひたすら葉を茂らせて
地上に濃い影を伸ばしてゆく

あなたがあなたであるための証を
刻むかのように
濃い影を

あなたがあなたであることを
確かめるように
濃い影を

足元から伸ばしてすっくと
真夏の坂道に立つだろう

あなたは夏の桜の木

ひしめきあう枝枝は 青空へと向かう
みどり濃く生い茂る葉は 風に鳴る
そしてその他には
なにも ない

これこそが
あなたであることのすべてだ

いちばんつよい
あなたのすがただ