満ちた月



連れてきたときは
空の色をしていた
曇り空のしたの晴れ間のように
ぽっかりと
あどけなく


根をはり土を食らい
葉をのばし雨をすすり
そう
風の匂いも変わりました
快活な晴れ間はほんのひとときで
うつろな
紫の
月になり


誰が見てもあの子だなんて
わかるはずもない

六月は
そうして満ちた月の多いこと


吸い上げるたびに
幽かにしびれてゆく
空から月になり
月から雲となり
温度の違う声のような雨が降るたび
変わってしまう


月から雲となり
雲からふたたび
炎へと
好きなだけ
変わってしまえばよいよ
多情に
薄情に
いくらでも忘れられて
欠けてゆくことも気にしないで


まあたらしい土にねむり
なじみのない水におぼれ

行き着く場所で
死んだように咲き誇り
生まれなおすように枯れてゆきます


ええ
おもかげの一つも残さないつもりです