雪の霊園




             雪に埋もれた霊園は
             閉館された迷路のように静かで
             空ばかり真っ青に晴れ渡っていた
             クリスマスも終わり
             街は年末に向けて大回転
             少し混んだ緑色の市電に乗って
             藻岩山の入り口で降りて 歩く
             こうして戻ってきた冬にしか
             会いにいかれない

             名前の知らない花を初めての花屋で買った
             死んだ人への花を買いますお姉さん
             きっと雪の中ですぐしおれるに違いないけど
             その、つぼみのいっぱい付いたのをください

             行きずりのコンビニでウイスキーと煙草と
             乾杯用の紙コップも忘れずに買ったら
             教えられた目印を左に折れて
             このまま長く続く山肌を上ればいい

             七年目の冬なんだね いったい
             なにを乗り継いで
             なにを乗り過ごして
             どんな待ち時間を潰してきたんだろう
             この白い布を被せた寂しいテーブルのような
             霊園に来るまであたしは

             石の住所は 十六の六
             腰までぬかる雪をかき進み
             あなたに覆いかぶさるようにして
             硬い雪を削り取って掘り起こして
             やっと出てきたのはまるいアカンボの頭のような石
             それは 輪廻する命の願いのような石だったよ

             会えてよかった
             冷たい頬をしてる
             またいつか
             帰ってくるのでしょう?
             どこかで誰かの子供になってくりくりの坊主頭で

             雪の霊園の
             あなたの魂は石の下にはいなくて
             もっと開けた青空の彼方から見ているようだった
             石に乾杯して煙草を一服貰って
             名の知らない花を 坊主頭に捧げた
             両手で頬を包んでも暖めてあげられないけど
             大事に思い出で包んだら
             ぬくもりは届くと信じたい

             ジーンズが膝まで濡れて
             裾についた氷の粒がビーズのよう
             閉館された迷路で迷う事もなく
             また新しい年がやってくる