とおい岸辺



                    道を歩いていて
                    ふいに立ち止まってしまった理由は
                    あのハナミズキの白が
                    まぶしかったせいかもしれない

                    その瞬間
                    あたしの前に
                    ちいさな川がうまれる
                    たとえるなら
                    ホームと新幹線の隙間くらいの
                    ほんのひとまたぎで越えられるはずの
                    ちいさな川だ
                    そして
                    その向こう岸に
                    あなたがあらわれる

                    はちきれんばかりの頬をして
                    やわらかなショートカットで
                    あなたは笑って
                    立っている
                    笑ってわらって
                    それから
                    泣いている
                    シューッと閉まったドアの中で
                    あたしも笑って
                    泣いている

                    ほんの数十センチの隙間の
                    ちいさな川は
                    いつか銀色の涙の濁流で満ちて
                    轟々とうねりながら
                    対岸のあなたをとおくへ運んでいってしまう
                    向かい合っていたはずの顔が
                    つかのまの残像になり
                    鮮明なイメージになり
                    忘れられない染みになる

                    その瞬間
                    あたしの前の
                    ちいさな川が消える
                    ほんのひとまたぎで越えられるはずの
                    あの岸辺が
                    ぐんと遠ざかり消えてゆく


                    あたしは 
                    見えないドアを開ける
                    目の前の
                    何にもない道を大きくまたぐ
                    そうして
                    ハナミズキのまぶしいこの岸辺を
                    歩いてく