紙ふぶき




ふるさとを発った汽車は
切り取り線の上を南へ走ります

からだを揺すられる度に
ぴりぴりぴりと
きれいに切り離されていく
雪景色
鉛筆書きの木々や
えんとつ
黒い川
印象深いあの丘あたりで
ちょっと乱暴にちぎれてしまったけれど
それでもリズムよく
途切れることなく
ふるさとの裁断はつづきます
時折はひろげて思い出すんだよと
伯母さんの声みたいに

その風景は
墨絵ほど哀愁があるわけじゃなく

雪のふるさとは
白紙の上のいたずら書きのように
あどけないのです
写真に収めても
無欲なひたすらが連なるばかりで
まっさらな画用紙とさえかわりがないようで
ただ
ひとつだけ
違いがあるとするなら
粉雪の沈黙は
うるさすぎるということでしょうか

終点で
きれいに切り取られたふるさとを
ていねいに折りたたんで
古いポケットにしまいこみます
そうして定刻通りの
じゃるに乗り込めば
もう足跡も残らない

帰る人々に切り取られて
ちりぢりになった
北の町が
紙ふぶきのように空高く舞い上がれば

今夜帰り着く大阪にも
ひらひらひら
落ちてくるような気がします