てがみ



                        なつかしい人から
                        手紙がとどく
                        玄関先に落ちている文字を見れば
                        すぐにわかる
                        花を摘むように拾いあげて
                        花占いをするように
                        封をちぎる

                        そのひととの思い出といえば
                        いつも真っ白い雲が浮かぶ
                        わたしたちの上にはいつも
                        かみなり雲やイワシ雲が湧き立っていた
                        テニスコートのフェンス越し
                        放課後の
                        教室の窓は開いていて
                        そこから洗い立ての雲がはいりこんだ
                        なにを見ていたの
                        さびしい時代もあったけれど
                        そのひとが教えたノスタルジーで
                        いまもわたしはできている

                        便箋の最後には
                        かわらない筆記体のサイン
                        頭文字のYには
                        今もちいさなハートが飾られて
                        わたしには少しくすぐったい でも
                        どうかずっと
                        失くさないでと思う

                        読み終えてまじまじと封筒を見返せば
                        そのひとの住所は
                        テトラポットのように並び
                        紺色の波をしずかに寄せている
                        寄せては返し
                        遠のいてはまた近づいて
                        ひょっとして
                        永遠 はありますか

                        表には
                        見慣れた名前が明記されており
                        その住所は
                        お、お、さ、か、ふ
                        はじめてみる地名のように不思議に思う
                        同じように不思議な見慣れた名前は
                        けれど
                        そのひとの癖のある文字にかたちどられ
                        しあわせそうに並んでいるのだった