十才の声




                   何故 育ってしまうのだろう
                   あたしは
                   恋も性も知らないままで
                   夕暮れが沈むまでここにいたいのに

                   時間が進むこと (いや)
                   進んでることすら知らなかったあの頃は
                   あたしが中学生になることも
                   想像できなかったし まさか
                   ハタチになってしまうなんて
                   作り話みたいだった

                   あたしはずっと小学生のままだと思ってた

                   裏の公園でよく遊んだ
                   ミミズも殺した
                   トンボや蝶はとっても殺さなかった
                   いつだって動いていた
                   この手足はほんとうにあの日のものなのか
                   この目でほんとうにあの景色をみていたのか
                   わからなくなるあたしが さびしい

                   いつしか手足が伸びてしまい
                   公園が狭くなると
                   小学生は中学生となり
                   ひだスカートをはくようになった
                   缶けりや十字架鬼にも興味をなくし
                   滑り台やブランコも窮屈になると
                   子供は性を意識しはじめ
                   恋の話に胸をときめかせた

                   そして
                   あたりまえのように
                   肌を合わすことを覚え
                   あたしは信じられないことに
                   ハタチを超えてしまった

                   「おとこ」というものがつきまとう
                   からだとこころ

                   一日中疲れも知らずに駆け回っていた
                   あの日々
                   短ぐつのかかと ソックスの汚れ 膝小僧のケガ

                   もういないと思っていた
                   忘れてただけだったんだ
                   あたしは十才のおてんば娘で
                   木登りが好きだった 赤い実を取ったよ

                   恋しい男さえ思い出さない
                   夢中の無邪気な夕暮れの公園で
                   あたしは帰るよ (いや)
                   呼び起こすよ
                   あたしに 十才のあたしに

                   手足はまだあの感覚を覚えてる
                   鉄棒の冷たさも
                   砂がはいってザリザリの足も
                   悲しいけれど毎日は大人色で動いてる
                   やっぱり進んでる
                   ハタチを超えたあたしは
                   三十才の自分なんて作り話だから

                   ねえ
                   四十才になったらもう逆上がり出来ないかな
                   木登りももう無理かな
                   もっとちょうだいもっともっともっとねえもっと

                   おさげ髪のあたしが叫ぶの
                   その声 ずっと 消さないからね