おとうと




              あたしのポケットに
              おとうとがいて
              あおいタオル地のパンツをはいて
              チューチュー眠ってる
              もうずっと眠ってる
              から 起こせないもうずっと
              起こせない
              それなのに

              あんたがあたしのおとうとというの
              ながいかおほそいうでこいほほで
              姉ちゃんとあたしをよぶの
              なんにも喋らないくせに
              年賀状もくれないくせに
              そっけない顔でいつだって帰ってしまうくせに
              あんたがあたしのおとうとというの
              何をしてきたかなにも知らない
              何がすきなのか教えてくれない
              部屋のすみで知らないうちに茂っていった
              忘れられた植物みたいな気配をした

              おとうとは
              あたしのポケットのなかで
              まだ起こせない
              だってほらまだあたしがシャンプーしてあげるんだもん
              目にはいんないようにって
              じっとしてって
              ちいさな頭をなでて
              ごめん

              何をしてきたか関心がない
              何がすきなのかきいたことがない
              いつだってつめたい姉だったから
              部屋のすみでしずかに茂っていった
              おとうとの記憶がないのよ

              きっとポケットのおとうとは
              目を覚ましたら融けてしまうのね
              あまいキャンディみたいに
              あたしの思い出に食べられて
              ねえ

              ながいかおほそいうでこいほほの
              あんたがあたしのおとうとというの
              おとこになったくぐもったこえで
              姉ちゃんと
              あたしを呼ぶの
              (姉ちゃんと)
              (呼んでくれるの)

              いままでなにをしてきたの
              あんたの好きなものをおしえて