プロローグ




ひとの匂いが恋しくて
ただ遠くから
遠まきにして
ひとの匂いをかいでいた

昔飼われて捨てられた
ひとの温もりを知っている
老犬のように
よろよろと

近寄りたくて
近寄れない
遠ざけながらも
去りきれず

ひとの集う声に
引き寄せられ
考え事をしているように
立ち止まり

素知らぬ顔で
雲を見送りながら
ひとのそばに
立っていた

ひとびとの
その声のもとに身を埋め
見えない尻尾をちぎれんばかりに振り
誰かにふれてもらいたい

老犬のような心で