タマネギ



                         時間をかけて
                         溜まる性欲にも似て
                         わたしの中で
                         じっとりと澱んでゆくものがある

                         それを
                         今ならカンタンに
                         ウツ と呼べるのかも知れない
                         いやもしかしたらもう
                         更年期 とも呼べるのかも知れない
                         名はなんでもよいのだけれど
                         その澱みは昔から発生して
                         わたしの中で滞る
                         体内で蔓延する
                         頭にも
                         こころにも
                         重く沈殿して腐敗する
                         えげつない詩をかきたくなる
                         無価値

                         タマネギをむいている
                         今の自分はニセモノだから
                         ニセモノだったってわかったから
                         茶色の堅い皮をはいだ
                         ほんとうの自分はこのなかで
                         もっとわたしには価値があってそう
                         もっといい奴で
                         もっと自信もあるはずで

                         剥き出たタマネギの
                         白い中身は光ってみえたけど
                         またすぐニセモノになってしまう
                         もう1まい
                         今度こそほんとうのわたしが見つかるから
                         もう1まいもう1まいって
                         その姿は、例え話のサルのよう
                         陳腐なお決まりの話
                         最後には何も残りませんでした 
                         なんて

                         いったい最後に何を残せるつもりでいるのよ

                         鼻水をすすりながらかく詩なんてバカげている
                         人に嫌悪を抱かせる詩なんてかくものじゃない
                         それは 甘いからだ
                         それは 弱いからだ
                         ズルイから卑怯だから頭がわるいから愚鈍だから
                         所詮タマネギだから
                         サルだから
                         わたしだからだ

                         さんざん自分の悪口をかいて
                         自分にいつも突き落とされて
                         這い上がれないところまで落ちて
                         結局どこにも何もないことを知らされてある日
                         そうか自分はニセモノだったんだって
                         納得させられる
                         納得してしまえば思い当たることはたくさんあり
                         見回せばどれも自然なわたしで
                         ほっと気がラクになる
                         ラクニナル?

                         ニセモノだったんです
                         最初から
                         ほんとうのわたしこそがニセモノの
                         まるのままのタマネギで
                         だからもうむいたりしなくていいんです
                         中身なんてないんですから
                         ありのままがせいいっぱいのわたしなのですから

                         滞る澱みは
                         たとえば絶頂感にも似て
                         きっと耳の奥から抜けていくだろう
                         性欲 のようなものだから
                         処理されてしまえばまた前向きのプラス思考で
                         わたしは愛の詩をかくよ

                         だけどまだイクには足りなくて
                         深い澱みにずぶずぶ浸かりながら
                         あがいている
                         赤いサルの顔をしたわたしが
                         醜くて

                         ダイキライ