蜜



                        そのことばたちを
                        読むだけで もう

                        あなたの甘い蜜が
                        とろり
                        あたしのこころのなかに
                        落ちてくる
                        どこかなつかしく
                        むかしから知っているような思いは
                        いつものあたしのやまい
                        (そう やまい
                        だとわかっていても

                        あなたの蜜は
                        いつでもあたしの欲しい色をして
                        匂いをして
                        味をして
                        それはずっとむかしに
                        嗅いだことのある蜜のよう
                        たとえばシロツメクサの白いふさ
                        みちくさのおさない蜜

                        そのことばたちを
                        読むだけで もう

                        ひなたの小径で育つ
                        ヒナギクの真ん中から零れ落ちる
                        こらえきれないひとしずくを
                        思い出せる
                        湧き上がる雲の種を
                        ポケットの中に隠したままで

                        帰ろうとしないあたしが
                        見知らぬあなたのさしだした
                        野の花の蜜をふくむ

                        だれも知りえない
                        野原に立って